飛行機がボリビアのラパスからアンデス山脈の上空を横断して、隣国ペルーの クスコに向かう間、目を見張る山並みの美しさに圧倒される。縦横に連なる大きな山岳や谷、その間に線を描いたように走る川。赤色に乾燥している山肌が続いているかと思うと、深い緑に覆われた森林地帯が見えたりする。豊かな大自然の全容が目の前に繰り広げられ、すっかりめまぐるしい日常の小さなことはどうでも良くなってくる。
インディオが泣く時
滅び去った誇りたかい民族の
栄華と偉大さを思い出す
それゆえに
山の頂きを通う憂い顔のインディオは
竹笛(ケーナ)にたくしてすすり泣き
昨日の思い出にふけりいる
ああピタコチャの神!
(増田義郎『インカ帝国探検記』より)


アンデスの長い歴史は、この雄大に連なる山々の懐の中に静かに治められているのだろうか。旅人の目には美しい光景としか映らない。が、知ろうとしない限り見えない未知の領域には、紀元前から営まれてきた人々の歴史の傷跡がたくさんあることを、風が教えてくれる。そう感じさせる空気がある。そこに住む人々の眼差しには、何千年という時を経て受け継いできたものが秘められている。静かな深い沈黙の眼差しである。そして人々と同じように、アンデスの大地には、黙して語らぬ遺跡がいたるところに点在している。紀元前から発生していたアンデスの壮大な宇宙観は、どこに隠れてしまったのだろうか。大地や人々の魂の深層に潜み、それとなく気付かせるが、全容の解明は謎という霧で見えにくい。
インディオの道
石の散らばるコージャの小道
黒々と谷を結ぶ
インディオの道
山に歌い
川に泣き
インディオのな悩みは
夜にいや増す
インディオの道や
日と月と
このわたしの歌だ
おまえの石にくちづけたのは
(アタウアルパ・ユパンキ 『インディオの道』浜田滋郎訳)

クスコは、南米大陸の大部分の領域を支配していたというインカ文明の最も栄えたころの首都だった。。社会、政治組織の発展、建築技術、天文学、芸術、農業の水準は高く、広範囲に摘要されていた。スペインの征服により、それらの最もすぐれた文化をもつひとつの古代文明が崩壊されたといってよい。これはまた、それまで西洋やアジアなど他地域の影響を全く受けていなかったこの地の原住民の文化の崩壊でもあったはずである。

インカ時代の宮殿や建物は、征服や植民地時代にほとんどが壊され、現在はスペイン建造物の土台としていくつかの壁や部屋が残っているだけであるという。破壊と略奪の傷が数多いにもかかわらず、進んだ技術に裏付けられた荘厳な時代を感じさせる街でもある。
インカ族の主神殿で、黄金の宮殿を意味するとされているコリカンチャは太陽の神殿であったが、スペイン征服後、ドミニコ会はこの神殿を土台にして、サン・ドミンゴ寺院と修道院を建設した。現在は、博物館としてその歴史の推移を見ることができる。

クスコは今、世界遺産の町並みは秩序と美しさをもって、維持されている。観光地として活路をみいだしているが、その歴史的な遺産とそこに住む人々の大切に守っているものは、この地球に住む全ての人にとっても同じように貴重な財産である。歴史に翻弄されてきた人々の悲哀を旅の途中で受けとめながら、人生の歩みを考えていければとおもう。そこに生活をする人々に対して、観光客であった自らにいいわけをしているのかもしれない。
刺繍や草木染めのカーペットを売っている母と13、4才の娘。
学校帰りの女子生徒たち。12才から14才くらい。
農村部の子どもたち
